大阪地方裁判所 昭和36年(レ)269号 判決 1963年6月18日
控訴人 青山信夫こと 趙宅奎
同 青山ミシン工業株式会社
右代表者代表取締役 青山今守
右両名訴訟代理人弁護士 東中光雄
同 荒木宏
同 上田稔
被控訴人 上好保太郎
右訴訟代理人弁護士 大西進
主文
本件控訴を、棄却する。
控訴費用は、控訴人等の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
被控訴人がすくなくとも昭和三四年四月までは本件土地を所有していたこと、控訴人趙が本件建物を所有してその敷地である本件土地を占有すること、控訴人会社が本件建物を控訴人趙より借受け使用することにより本件土地を占有することについては、当事者間に争いがない。
しかして、控訴人等は控訴人趙の本件土地についての時効取得を主張するので、審按するに、控訴人趙の本件土地に対する自主占有は民法第一八六条により一応推定されるが、しかし原審における証人章本明の証言によれば、控訴人趙は前所有者佐佐木良夫より本件家屋だけを買受け、その敷地である本件土地のことは考えていなかつたところ、昭和三一、二年頃被控訴人側より地代の請求を受け、本件土地が被控訴人の所有であることを知つたが、その要求額が不満で右請求を拒絶し現在に至つていることが認められ、なお控訴人趙の援用する前主福井喜美子の本件土地に対する占有についても、原審における同人の証言により、昭和二四年五月二一日本件家屋の所有権移転登記を経由した以前には所有の意思を有しなかつたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はないから、右時効取得の主張はこの点において失当であるから採用することはできない。
次に、控訴人等は本件土地につき被控訴人に対抗し得る地上権を控訴人趙が有する旨抗争するので、審按するに、成立に争いのない甲第一、二号証、乙第一号証、ならびに原審における証人福井喜美子≪中略≫の各証言を綜合すると、本件土地ならびに本件建物はもと関口金之助の所有であつたところ、同人は福井喜美子に対し本件建物のみを贈与し、福井は関口の前主多田一より昭和二四年五月二一日所有権移転登記を了した事実、その後昭和二五年一月六日本件建物は佐々木良夫に譲渡され、さらに控訴人趙が佐々木からこれを譲り受け昭和二六年一一月八日その旨の登記をなした事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
そして、関口が福井に、本件建物を贈与した際、該建物を取毀すことを前提する等別段の特約の存在を認める証拠はないから、受贈者たる福井をして本件建物を建物として使用せしめる目的で贈与されたものと認めるほかなく、したがつて関口は、本件建物のために底地(即ち本件土地)に用益権を設定したものと認められる。そしてその用益権の性質は、民法第三八八条および地上権に関する法律第一条の法意にかんがみ地上権と解すべきである。
そして、右地上権は、建物の処分に従うと解されるから、福井から佐々木、佐々木から控訴人趙と、本件建物が譲渡されたとき、右地上権もまた譲渡され、現在控訴人趙は本件土地につき建物所有を目的とする地上権を有するものと解される。
しかしながら、成立に争いのない甲第一号証によると、本件土地につき、被控訴人は関口との間において昭和二四年二月一四日売買予約を原因として同月一五日所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、且つ、昭和三三年四月一一日右仮登記に基づき所有権取得の本登記を了した事実が認められる。
そうすると、控訴人趙が、被控訴人に前記地上権をもつて対抗するためには、被控訴人の右仮登記よりも先に、福井が本件建物について所有権取得の登記を経由していることが必要である。
控訴代理人は、この点について、「福井が、関口より本件地上権の設定を受けたのは昭和二一年五月頃であつて、建物の登記名義は当初税金その他の都合により多田一の名義としていたが、やがて昭和二四年五月二一日自らの名義とするにいたつたのであるから、かかる場合にも建物保護法第一条第一項の適用を受ける」と主張するが、同条が、「登記したる建物を有する」ことを以て、借地権に対抗力を附与したのは、登記が不動産に関する権利を公示するという一般原則を修正し、建物の登記をもつて借地権そのものの登記に代用することを定めたに過ぎないから、福井ならびにその後の地上権の承継人である控訴人趙が、被控訴人に地上権をもつて対抗し得るのは被控訴人の前記登記よりも先に、地上権者がその者の名義で地上建物について所有権取得の登記を経た場合でなければならない。
そして前認定のとおり、被控訴人が本件土地につき、所有権取得を登記上対抗しうる時期は昭和二四年二月一五日であり、福井が、本件建物について所有権取得の登記を経たのは昭和二四年五月二一日であるから、福井ならびにその後の地上権の承継取得者である控訴人趙は、被控訴人に対して地上権をもつて対抗することができないものといわざるを得ない。
してみると、控訴人趙は、本件建物を所有することにより本件土地を不法に占拠するものであるから、被控訴人に対して右建物を収去して本件土地を明渡すべき義務がある。
さらに、控訴人趙は被控訴人に対し、右不法占拠に基づく損害賠償として、被控訴人の本件土地所有権取得登記の翌日である昭和三三年四月一二日から右土地明渡ずみまでの賃料相当の損害金を支払うべき義務があるところ、原審の鑑定人佃順太郎の鑑定結果によると、右賃料額は一ヶ月一坪当り、昭和三三年四月より昭和三四年三月までは金九三円、昭和三四年四月より昭和三五年三月までは金一一八円、昭和三五年四月以降は金一五三円が相当であることが認められ、右認定に反する証拠はないから、右相当額の範囲内である被控訴人の本訴損害金の請求は正当であり、したがつて、控訴人趙は被控訴人に対し、本件土地に関し、一ヶ月一坪につき、昭和三三年四月一二日より昭和三四年三月末日まで金九〇円、昭和三四年四月一日より昭和三五年三月末日まで金一一五円、昭和三五年四月一日より本件土地明渡ずみまで金一五〇円の各割合による損害金を支払うべきである。
次に、控訴人会社が本件建物を事務所として使用して本件土地を占有していることについては当事者間に争なく、本件建物の貸主である控訴人趙においてすでに前記認定のとおり本件土地を占有すべき正権限を被控訴人に対して有しない以上、控訴人会社においてもまた被控訴人に対し、本件土地占有につき何等対抗すべき権原を有しないから、本件建物から退去して本件土地を明渡すべき義務がある。
してみると、被控訴人の控訴人両名に対する請求はすべて正当と認められるから、これを認容した原判決は、結局正当というべく、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第二項により棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第八九条、第九三条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北浦憲二 裁判官 杉山克彦 渡瀬勲)